思い出の花舞うこの街で
この古の都に訪れる度思い出す。鮮やかに、だけど優しく咲き誇る満開の桜と霞み舞う花びら。そして。
―――赤い着物の女の子。
その紅を刷いた赤い唇から零れる聞き慣れぬ手毬歌が今も優しく胸に響いて。思い出すたびにこの胸を切なくさせた。
……それがまさか。
「灯台下暗し、は俺の方か…」
「え?なんやて?」
「なんでもあらへん」
東京へと帰る工藤らを見送った後、念の為にと再び病院へ向かうその途中。隣で呑気に歩くこのどうしようもなく面倒な幼なじみを一瞥し、また視線を前へ向ける。
先ほどから繰り返し耳に触れるのはあの記憶に優しい手毬歌。和葉は飽きもせずに何度も何度も口ずさむ。訂正してやったというのに姉さんの箇所は未だ嫁さんのままだ。
あれから8年。
子供の頃の幼い歌声からはやはり少し大人びているけど。優しく響いたあの歌と声色以外は何も変わらない。
風に聞こえる和葉の歌声。
胸に響く初恋の少女の歌声。
風が舞う。
桜が、霞む。
―――結局。
思って、苦笑する。そうしてまた和葉に視線を向け、からかうような口調で言う。
「お前には敵わんわ」
「なんやの、急に」
「別にー」
それだけ言って、少し歩調を速める。さっさと行くで、と声をかけたら和葉も慌てて歩調を速めた。結われた髪を踊らせて、俺の隣に並ぶ。
また緩やかに風が吹いて。
攫われた薄紅色の桜が視界を舞い。
その坂道を、並んで歩く。
―――つまり結局は、そうゆうことなんだろう。
「和葉ァ」
「んー?」
「花見、行こか」
「……うん!」
思い出の花舞うこの町で。
―――赤い着物の女の子。
その紅を刷いた赤い唇から零れる聞き慣れぬ手毬歌が今も優しく胸に響いて。思い出すたびにこの胸を切なくさせた。
……それがまさか。
「灯台下暗し、は俺の方か…」
「え?なんやて?」
「なんでもあらへん」
東京へと帰る工藤らを見送った後、念の為にと再び病院へ向かうその途中。隣で呑気に歩くこのどうしようもなく面倒な幼なじみを一瞥し、また視線を前へ向ける。
先ほどから繰り返し耳に触れるのはあの記憶に優しい手毬歌。和葉は飽きもせずに何度も何度も口ずさむ。訂正してやったというのに姉さんの箇所は未だ嫁さんのままだ。
あれから8年。
子供の頃の幼い歌声からはやはり少し大人びているけど。優しく響いたあの歌と声色以外は何も変わらない。
風に聞こえる和葉の歌声。
胸に響く初恋の少女の歌声。
風が舞う。
桜が、霞む。
―――結局。
思って、苦笑する。そうしてまた和葉に視線を向け、からかうような口調で言う。
「お前には敵わんわ」
「なんやの、急に」
「別にー」
それだけ言って、少し歩調を速める。さっさと行くで、と声をかけたら和葉も慌てて歩調を速めた。結われた髪を踊らせて、俺の隣に並ぶ。
また緩やかに風が吹いて。
攫われた薄紅色の桜が視界を舞い。
その坂道を、並んで歩く。
―――つまり結局は、そうゆうことなんだろう。
「和葉ァ」
「んー?」
「花見、行こか」
「……うん!」
思い出の花舞うこの町で。