a hero is whom

迷宮の十字路より。
 深夜の京都、鞍馬山の山奥にサイレンが鳴り響く。寺の一部で燃え盛っていた炎も義経流の門下生達によって既に消火され、あとは本堂へ続く石畳に沿って並び置かれた篝火だけが煌煌と辺りを照らすだけだ。
 そうして警察官がわらわらと駆けまわるその喧騒の中、その様子をまるで他人事のように傍観する二人。


「でもよぉ、さすがにあれはやりすぎだろ」
「なんや、急に」


 突然のコナンの言葉に、平次は自分よりずっと小さくなってしまったコナン――新一に視線を落とす。
 篝火が作る二人の影が揺れる。新一の影はやはり小さくて、先ほどの姿が嘘のようだ。


「ホントに切られるかと思ってヒヤっとしたぜ」
「あーあー!あれか!あれなー」
「ヤツらの目を誤魔化すにしたって、真剣で何もあそこまで…」
「せやかて、お前かて悪いねんで?」
「…何が」
「何て、か……」


 そこまで言って、平次は言葉を詰まらせる。
 言えない。
 言うまい。
 そんなつもりはなかったのだからただちょっと、―――ムっときただけで。


「か?」
「い、いや。なんでもあらへん」
「んだよ」
「いやまぁ、自業自得っちゅうことやな!ははは!」
「自業自得って…」
「ま、済んでしまたことやし、気にすんな!」
「……」


 そう言って、無言の抗議を続ける新一を後に平次は入口の門近くで談笑する小五郎らの元へ向かう。
 新一は腑に落ちないまま、しかしこれ以上の詮索は無意味だろうと悟り、またその姿に似つかわしくない溜息を1つ零して平次の後をついて行く。


 別に気にしてなんていない。
 ただちょっと、気にいらなかっただけだと平次は自分に言い聞かせる。


 …あの時。
 和葉を助けた時の新一が。
 助けただけだし逃げるためと分かっているのにあの庇い様もあの寄り添いっぷりも気に食わないなんてそんなこと思ったなんて。
 本当なら自分の役目だった筈なのにと思ったなんて。


 ―――口が裂けても言うまい。





*ヤキモチ焼きだな平次(笑)