未来
「これは君の学生時代か?」
手にした写真を片手に眺めながら、ロイはリザに問う。まだ色の褪せない、だけど懐かしい色を纏った少し古い写真。写真の中央にはリザと、おそらく友人だろう。まだ少女と呼べそうな、若い女性が3人制服姿で映っていた。背景の建物はおそらく、校舎。学校とはどこも独特な雰囲気を持っているのか、記憶に無いものであってもそうだと分かる。
「…いつの間に」
「書類に挟まっていたんだよ。
君が写真を持ち歩くなんて、少々意外だな」
職業柄、家族の写真を持ち歩く軍人は少なくない。しかし常に側にいるロイですら、未だかつてその懐に思い出を仕舞う彼女を見たことが無い。初めて見る少し幼いリザの過去を、ロイはまじまじと見入る。
「持ち歩いているわけではありません。
昨日部屋の片づけをしておりましたので、その際に紛れたのでしょう」
返してください、と言う代わりに、リザはロイに手を差し出す。
しかしロイはそれに応えず、もう少し、とその写真を眺めた。
まだ髪の短い頃のリザ。
確か出会った頃もこのぐらいだったな、とロイは思い出す。
強い目は変わらない。だけどもう少し、今より柔らかかったような気もする。少なくとも、この写真の彼女は幼さのせいかその目の強さは今ほどには無くて、普通の、少女にも見える気がした。
…感傷に浸る趣味は無い。
無い、が、しかし。
「…大佐?」
「いや、ね」
「はい?」
「私が君と同じ年であったなら、私もここに映っていたのだろうかと」
全くくだらない事だとロイは思う。
だけどそんな自分たちを想像するのも悪くない気分だ、とも、思う。
「それは無理です」
「何故」
「女学校ですから」
「……そうだったな」
「女装でもされますか?」
「いや、遠慮するよ」
そう言ってロイは、まいったというように手のひらをリザに向け、静かに笑う。
それにつられてか、リザもまた笑った。
その表情が少しだけ、写真の中のリザと重なって。
子供じみた感情だと分かってはいるが、やはり、とロイは思う。
そうしてロイはリザに写真を返すようにそれを差し出し、リザは今度こそ、受け取るようその写真を手に取る。が、それは再び、ロイ自身によって拒まれる。
写真の端をお互いに持って、一瞬の沈黙。
そんなロイの挙動に、リザは不思議そうな(むしろ怪訝そうな)顔をして、しかし非難するより早くロイが言った。
「君の思い出の写真の中に私が居ないというのは、案外悔しいものだな?」
――感傷に浸る趣味は無いが。
悔しいものは、悔しいのだ。
だけどリザは一瞬面食らうものの、すぐに体勢を立て直し写真を強く引っ張る。
手の中の過去。思い出の自分。出会ったのはずっと後で彼女の過去に彼は居らず、彼の過去に彼女は居ない。
だから当たり前のことなのだけど。
「それはきっと、お互い様です」
だけどたまにはそんな些細な事に、悔しいと思うのも悪くないと、思う。
手にした写真を片手に眺めながら、ロイはリザに問う。まだ色の褪せない、だけど懐かしい色を纏った少し古い写真。写真の中央にはリザと、おそらく友人だろう。まだ少女と呼べそうな、若い女性が3人制服姿で映っていた。背景の建物はおそらく、校舎。学校とはどこも独特な雰囲気を持っているのか、記憶に無いものであってもそうだと分かる。
「…いつの間に」
「書類に挟まっていたんだよ。
君が写真を持ち歩くなんて、少々意外だな」
職業柄、家族の写真を持ち歩く軍人は少なくない。しかし常に側にいるロイですら、未だかつてその懐に思い出を仕舞う彼女を見たことが無い。初めて見る少し幼いリザの過去を、ロイはまじまじと見入る。
「持ち歩いているわけではありません。
昨日部屋の片づけをしておりましたので、その際に紛れたのでしょう」
返してください、と言う代わりに、リザはロイに手を差し出す。
しかしロイはそれに応えず、もう少し、とその写真を眺めた。
まだ髪の短い頃のリザ。
確か出会った頃もこのぐらいだったな、とロイは思い出す。
強い目は変わらない。だけどもう少し、今より柔らかかったような気もする。少なくとも、この写真の彼女は幼さのせいかその目の強さは今ほどには無くて、普通の、少女にも見える気がした。
…感傷に浸る趣味は無い。
無い、が、しかし。
「…大佐?」
「いや、ね」
「はい?」
「私が君と同じ年であったなら、私もここに映っていたのだろうかと」
全くくだらない事だとロイは思う。
だけどそんな自分たちを想像するのも悪くない気分だ、とも、思う。
「それは無理です」
「何故」
「女学校ですから」
「……そうだったな」
「女装でもされますか?」
「いや、遠慮するよ」
そう言ってロイは、まいったというように手のひらをリザに向け、静かに笑う。
それにつられてか、リザもまた笑った。
その表情が少しだけ、写真の中のリザと重なって。
子供じみた感情だと分かってはいるが、やはり、とロイは思う。
そうしてロイはリザに写真を返すようにそれを差し出し、リザは今度こそ、受け取るようその写真を手に取る。が、それは再び、ロイ自身によって拒まれる。
写真の端をお互いに持って、一瞬の沈黙。
そんなロイの挙動に、リザは不思議そうな(むしろ怪訝そうな)顔をして、しかし非難するより早くロイが言った。
「君の思い出の写真の中に私が居ないというのは、案外悔しいものだな?」
――感傷に浸る趣味は無いが。
悔しいものは、悔しいのだ。
だけどリザは一瞬面食らうものの、すぐに体勢を立て直し写真を強く引っ張る。
手の中の過去。思い出の自分。出会ったのはずっと後で彼女の過去に彼は居らず、彼の過去に彼女は居ない。
だから当たり前のことなのだけど。
「それはきっと、お互い様です」
だけどたまにはそんな些細な事に、悔しいと思うのも悪くないと、思う。