01.ばんそうこう

別にどうだっていいんだけど、さ。
「あれ、藤崎もばんそーこ貼ってるじゃん」
「? なんだよそれ」

 休み時間、教室でだべってたら不意にダチの一人がそう言った。
 そうかと思うと、オレのほうを見てにやにやしやがって。
 ばんそーこが何だってんだ。
 訳が分からず訊いたオレに、やけに得意げに奴は言う。

「しらねーの?進藤。最近女子の間で流行ってんだぜ。
 ばんそーこに好きな奴の名前を書いて貼っておくと両思いになれるっておまじない」
「…そういえばみんなしてんな」
「女子ってあーゆうの好きだよなぁ」
「んなもん、叶うわけねぇって」
「でもあいつもしてるぜ?」
「あいつ?」
「だから、藤崎」

 その言葉に、ちらっとあかりを見る。
 言われてみれば左手の指に、目立たないがカラフルなばんそーこが一つ。
 この間怪我した時にオレに貼ったやつだ。

「誰の名前が書いてあるんだろうな」
「…しらねぇよ」

 あかりが誰の名前を書いたかなんて。
 っていうか好きな奴がいるなんて聞いたこと無い。

「気にならねぇ?」
「なんでだよ」

 関係ねぇよ、と即答してあかりから視線を逸らす。
 あかりが誰を好きでもオレには関係ない。
 …だと言うのに、目の前のこいつはやけにニヤニヤしやがって。

 関係ねぇっつってんだろ!

「あ、おい。何処行くんだよ」
「便所!」

 うっとうしさから逃げるように、オレは席を立つ。
 休み時間はあと5分。
 投げるように乱暴にドアを開け閉め、教室を出る。

 離れた教室から聞こえる女子の声。


 ――後であかりをからかってやろう。

 そうしなきゃ、なんとなく、気がすまない。


 オレには、関係無いけどな!


*昔そんなおまじないがあったなぁと思い出し。
女子なら誰もが通る道。(と、思う)
あと消しゴムに書くってのもあったなぁ…。


















 聞きなれたチャイムが校内に響いて、今日の授業はおしまい。
 帰りの会も終わって、私は急いで教室を出た。
 早くしないと、ヒカルが帰っちゃう。
 今日は何か嫌なことがあったのか、ヒカルはどこか不機嫌だった。
 だから帰りの会のあともすぐ教室を出ちゃって…
 ―――いた!

「ヒカルっ」

 まってよ、って大声で叫ぶのに、ヒカルは振り向いただけでまたさっさと行ってしまう。
 〜〜〜もうっ!何をそんなに怒ってるのよっ
 ヒカルと違って運動が得意じゃない私は、ランドセルを背負っているせいもあってなかなか追いつかない。 やっとで追いついてヒカルのとなりにならんだけれど、ヒカルはやっぱりムスっとしたままだった。

「ヒカルどうしたのよ」
「―――別に」
「それなら待っててくれてもいいじゃない」
「お前が遅いんだよ」

 そう言ってまたスタスタ行っちゃう。
 もう!早いってば!

「…お前こそ、それどうしたんだよ」
「…え?」
「そのばんそーこ」
「あ、これ、図工のときに切っちゃったの。彫刻刀で」
「……彫刻刀?」
「うん。硬くてちょっと力入れすぎちゃった」

 おかげでちょっと失敗しちゃったけど。
 そう言ったらヒカルがどこか気の抜けた顔で、なんだ、と呟いた。

「何?」
「なんでもねぇよ。つーかお前、この前もやってなかったか?」
「ヒカルだってパレットひっくり返してたじゃない」
「俺は怪我してねぇもん」
「服汚して怒られたくせに」

 そうやって言い合ううちに、ムスっとしてたヒカルもいつのまにか機嫌が直ったみたい。
 ヒカルとこうして、からかったり笑ったりする時間が私はとても好きだった。

 そして1つだけ、安心する。
 気付かれなかった、左腕のばんそーこ。
 見えないように見えないところに貼った、これは大事なばんそーこだから。




*こんな 小学生は ありえない。
誰よりも私がそう思うのでした。

しかもからかってないしな(笑)でも進藤は「好きなやつでもいんのかよ」という台詞はこの歳じゃ吐けないと思う。 いっちょ前に焼いちゃう進藤は中1までは訳が分からないまま苛々しているといい。 理由を追求する術など知らなくていい。…自分で書いててなんですが(笑)
2005.07.01