03.秘密基地

 内緒だよ。
「ったく、何してんだアイツ」

 舌打ちをして、手にした受話器を乱暴に置く。
 長年使っているこの電話機はちょっとやそっとじゃ壊れやしない。
 …いや、そんなことよりも。

 ――ったく、めんどくせぇ。

「ヒカル?どうしたんですか?」
「あかりが帰ってこないってさ」

 あかりの親からの電話。
 いつもなら帰ってくる時間なのに、まだ帰らない、と。
 だからウチに来てないか、と。

「あかりちゃん?どうして」
「さぁな。親と喧嘩でもしたんじゃねぇの?
 俺ちょっと出かけて来るから、佐為、お前留守番しとけ」
「え、待ってください。何処へ――」
「あいつが行くとこなんて決まってんだ」

 そう、決まってる。
 こんな時はいつだって、あの場所でうずくまってんだ。

「私も行きます」
「いいから待ってろ」
「でも…」
「いーから」

 佐為の言葉をぴしゃりと跳ね除けて、俺は部屋に戻る。このままで出るにはさすがに肌寒い。上着を取り、携帯を前のポケットへ、財布を後ろのポケットへ突っ込む。

 そして傍らを見れば、相変わらず心配そうに、おろおろする佐為。

 だから俺はふぅ、と一つため息をつき、小さく言った。

「約束なんだ」
「約束、ですか?」
「あぁ。秘密基地だからな」
「ひみつ…きち??」
「―――後でゆっくり教えてやるよ」

 そう言って部屋を出る。
 とりあえず納得したのか、佐為も追ってくる気配は無くて。

 わりぃな、佐為。

 と、頭の中で小さく呟いて、家を出た。


 ひみつきち、だからな。



 それは昔に、交わした約束。



*…佐為に教えるかどうかは迷ったんだけどねー。
というか佐為が書きたくて書いた話で。すいません甘くなくて。いつものことです。すいません。

秘密基地は幼馴染の約束の場所なんだよと主張してみます(笑)
だけどさ、自分にも記憶あるんですけど、今思うとすっげぇ分かりやすい場所なのな(笑)秘密じゃねぇよ!って感じの。そんでなんか色々隠したりして。隠れてねぇよ!って感じの。
きっと二人の秘密基地もそんな場所だといい。可愛いから(笑)

















 かろうじて顔を出している太陽が、影を大きく作っているのを見て、私は大きく溜息をついた。
 帰らなきゃ、って思うのに、金縛りみたいに身体が動かない。
 私が悪いって、ほんとうは知ってるの。素直に謝れなくて、お母さんに酷いことを言っちゃった。

 思い出してまた、泣きそうになる。

「…ふぇ…っ」

 お母さんの、怒った顔。
 帰ったらまた怒られるかもしれない。
 そう思うとやっぱりここから出られなくて、私は溢れそうな涙を必死で止める。
 乱暴な足音が聞こえたのは、その時だった。

「あかりっ」

 ―――?

「やっぱりここか」
 息を荒くして、―――ヒカルが。あきれたように言う。

「ヒカル、どうして…」
「おばさんから電話あった。帰るぞ」
「でも…」

 まだ、怒ってるかも。
 そんな思いが私の身体を重くする。
 けれどヒカルは容赦なく、私の手を乱暴に掴んでぐいっと引っ張った。

「ヒカルっ」
「ほら、早く。帰るぞ!」
「でもっ」
「どうせ喧嘩でもしたんだろ」
「…だって…」
「俺も一緒に謝ってやるから」

 そういって、ヒカルが私の腕を掴んだままぐいぐいと引っ張っていく。
 背中を向けるヒカルを、私は引っ張られるまま小走りで追いかけて。

「…ホント?」
「おう」
「…ありがと…」
「お礼は給食のゼリーでいいよ。明日の」
「えー?」
「文句あるなら1人で謝れ」
「ないよ、ない!」
「よっし」

 決まりだな、といってヒカルが笑う。
 その笑顔に、私もさっきまで泣いていたのが嘘みたいに、笑ってた。

「じゃあヒカルが怒られた時は私も一緒に謝ってあげるね」
「別にいいよ」
「遠慮しないで。お礼はプリンでいいよ?」
「お前のほうがぜいたくじゃねーか」


 ―――あのね、ヒカル。
 もしかしたらね。


「いいじゃない、1つぐらい。どうせ残り物貰うんでしょ?」
「じゃんけんに勝てなかったら1つだよ!」
「ヒカル、弱いんだ」
「そんなことねーよっ」


 もしかしたら、私はあの場所でずっと。
 ヒカルが来るのを待ってたのかもしれない。


「ほら、さっさと行くぞ!」
「うん!」


 ―――なんてね?



*私の中にはプリン>ゼリーの図式が。
給食の残り物はじゃんけんで勝ち取るもの。
2005.07.14