04.痴話ゲンカ

 ヒカルは優しくなったと、思う。
「…ね、ヒカル。やっぱりさっきの無しにしていいかな…?」
「だめ」
「お願いっ」
「だーめ。待ったなしって言ったろ」
「でも」
「ダメったらダメだ」

 いつものように、放課後、理科室で。
 せっかくの置石が次々に取られてしまって、わたしは慌ててヒカルを止めた。
 だけど帰ってくる言葉は「ダメだ」の一点張り。
 いいじゃない、ヒカルの方が強いんだから!

「何よ、ヒカルのケチ」
「なんだと!」
「ちょっとぐらい手加減してくれたっていいじゃない!」
「お前そんなことばっか言ってっから上達しねぇんだよ!」

 そうだけど!そうかもしれないけど!
 でもそんな言い方しなくたっていいじゃない!?

「何よっ!ヒカルのバカ!」
「バカっていう方がバカなんだよ!」
「バカバカバカバカ!」
「―――うるせぇ!」

 来る!と思って思わずわたしは身をすくめる。
 昔から決まって、ヒカルは口げんかではかなわなくて、すぐに乱暴に手を出したりするんだ。

 だけと思っていたような衝撃は無くって。
 変わりに、不機嫌なヒカルの顔。

 そうして舌打ちを一つして、乱暴に頭をかいて碁盤を見つめなおす。

「――分かったよ、じゃあさっきのところからな」

 そういってヒカルは碁石を、不貞腐れた顔で少し前の状態に戻す。
 私はそんなヒカルの様子に意表をつかれて、思わずぽかんとしてしまった。
 そんなわたしの様子を不思議に思ったのか、ヒカルが怪訝そうに訊いてくる。

「…なんだよ?」
「…なんでもない」

(……やっぱり、)

 ヒカルはきっと気づいていない。
 わたしも最初は気づかなかった。

 気づいたのは、日直のとき一緒に日直だった男子が重たい荷物を持ってくれたとき。

 いつかわたしの髪を引っ張って苛めていた子が、持つよって声をかけてくれたとき。

 ケンカをしても手を出すことがなくなった。
 言い争っていても距離をとるようになった。
 どんなひどい言葉にも、決してそれ以上のことは言わなくなった。

 ―――昔はドジ!とかブス!とか平気で言ってたのにな。

 優しくされているはずなのに、手を出されているわけじゃないのに。

 叩かれる痛みよりも、
 投げつけられる言葉よりも、

 ただこのなくした距離が、胸に寂しかった。



*ごごごごごめんなさ…!誰に言われる前に自分で言う。矛盾だらけですいません。
要するに男子って成長すると優しくなる上に悪口も言わなくなるよねって話なのでした。
なんか昔近所の同級生に背中とび蹴りされてたりしたんだけどいつのまにかそんなこともなくなっていたのを思い出しました。痛かったけど構ってもらえたのが嬉しかったりしたわけで。そしてきっとまた逆も然りだったのだと。思うわけで。
なんかお題と微妙にズレてんですけどね…!(くそくそ!)