11.天体観測

 貴方だけの星を。
「うーん…ここ…?」

 そう言って、おぼつかない手で不安げに、手にした碁石をことりと置く、ヒカルの可愛い幼馴染。
 豊かな黒髪を横で結った姿がなんとも可愛らしい。髻のようだけど、そういったものとは全く違うのだと気づいたのは現世に甦ってしばらくたってからのこと。

(ヒカルに出会ってしばらくは、それどころじゃありませんでしたしねぇ)

 出会うもの全てが珍しく、興味深い。町も人も、暮らしも全て。何を見てもわー!と騒いで仕舞っていたから、ヒカルには怒られてしまったけれど。

 あかりちゃんの回答は、私の思う答えと同じで。私は思わず嬉しくなって――本人には聞こえないけれど――正解です、と弾むように答えた。そうしてまた、私の言葉を受けて、ヒカルがぶっきらぼうに正解とだけ答えて。
 その瞬間、先ほどまでと打って変わって、あかりちゃんの表情がぱあっと笑みに変わった。
 ヒカルと行動を共にしてしばらく経ち、それは何度も見た顔だけれど。いつみても、春が芽吹くような可愛らしい笑顔で私も思わず笑みが零れてしまう。

 ――あかりちゃんは本当に可愛いですねぇ
 ――そうかぁ?っつーか、お前いっつもそればっかだな。

 それよりも、次、と。それ以上の言葉は遮られて、私はまた次の問題をあかりちゃんに問いかける。そうしてまた、あかりちゃんは、その白磁のような手を顎に当て、うーんと悩む。
 だけど今度は、そう時間がかかることもなく、ここ!と元気良くその黒石を置いた。
 私はまた嬉しくなって、正解!と拍手とともに答えた。
 それを伝えるヒカルの声は、至極素っ気無くて少し残念だけれど。
 それもまた、いつもの事。
 こんな時間が他愛なく愛しいのだとヒカルに伝えたら、また何言ってんだって怒られるだろうか、と。そう思ったとき、ふいにあかりちゃんが、あ、と声を上げた。

「? 何だよ」
「ね、ヒカル見て!星みたい!」
「…は?」
「だからね、この碁盤が空で、石が星なの。ほら、オリオン座みたいでしょう?」

 そういって、あかりちゃんが並んだ碁石を指で示す。
 おりおんざ、というのが何かは分からないけれど。いつかを思い出し、ぷっと吹き出してしまった。

 ――ヒカルと同じこと言ってますね
 ――…うるせぇよ

 ばつが悪そうに、ヒカルはそっぽを向いてしまって。あかりちゃんのどうしたの?の声に慌ててなんでもねぇよと取り繕う。
 そんなヒカルがおかしくて、ついつい笑ってしまう。ヒカルが不機嫌になるのは分かったけれど、やっぱりおかしくて堪えられない。
 袖の端で口元を抑えて、出来るだけヒカルには聞こえないように静かに笑う。

(本当に、可愛らしい。
 ――そう言ったら、ヒカルは怒るでしょうけど)


 そうして、私は遙かな時に、どうか、と祈る。

 この可愛らしい幼馴染達が、他愛無い日常に幸せであるように、と。



*佐為っぽくするのって難しいですね。>一人称が
ですます使うのは簡単だけど出来るだけ自然にするならこうかなーと思っ……た…んです…が…。うん、もういいよ…(めそめそ)