17.夢

 幸せな夢をみて、幸せなことを思う。
 だけど本当の幸せは、思いもよらないところでやってくるのだ。
「後は?」
「んー、あ、卵あったっけ?」
「無い。あっちだな」

 ガラガラとショッピングカートを引いて、ヒカルはその方向へ向かう。いつも来ているわけではないのに、それでも覚えているのはきっと小さい頃から来たことがあるからだ。
 私も同じく、メモから目を離しヒカルの後を追う。
 卵の棚は遠くなくて、先についたヒカルはどれだ?と頭をかしげる。

「んと、M10個だって。それね」

 棚の中央、一番たくさんあるそのパックを指差して、ヒカルがそれを取る。ガサ、とパック特有の音がして、他の食品と同じように買い物カゴに収められた。
 そうしてカゴの中身と、預かったメモを照らし合わせる。
 卵、たまねぎ、ひき肉に、パン粉。きっとメニューはハンバーグだね、っていったらヒカルが少し嬉しそうな顔をした。なんだか、子供の頃みたいだと思って私も嬉しくなった。

 ふと、ヒカルが何かに気づいたようにカートを引いて動き出す。

「ヒカル?」
「報酬ぐらいは貰わないとな」

 そう言って、野菜のコーナーに戻って梨を一つ、手に取る。お前も食うだろ?と、梨の山から一つ選んでカゴにいれた。

「甘いの選んだ?」
「そんなのあるのか?」
「あるよー」
「じゃあどれだよ」
「…私も、わかんないけど」

 だけどお母さんが選んでくる果物はいつも甘い。一緒に買い物に行くといつも何かを探して選んでいるから、きっと何かコツがあるんだと思う。聞いておけば良かったと、ちょっとだけ後悔した。

「つーかさ」
「ん?」

 ヒカルの言葉に、ふっと上を見上げたら、ヒカルは明後日の方向を見ていて。なんだろう、と黙って聞いていたらそれはとても、思いがけない言葉だった。

「――新婚みたいだな、俺たち」

 …たぶん、他意はないんだと思う。
 だっていつもみたいに済ました顔だ。
 ヒカルは何にも考えてない。

 でもそれは私は何度も何度も夢にみていた、もので。

「――そうかもね」

 意味なんて無いのに、それでも嬉しくて嬉しくて、それだけ答えるのに精一杯だった。



*……むしろ夢を見ているのは私ですか?
はいはい寒いですよーいやー最近は冷えますネー。