19.ライバル
「――それで、進藤君と喧嘩したんだ」
少し俯きながら、あかりはこくりとうなずいた。
手にしたカップを口へ運び、音を立てずに一口飲んで、ティースプーンを置いたままのソーサーに戻す。そんなあかりの目は、泣いたせいだろうか、少しだけ赤くなっていて。
私は、そっか、とだけ呟いた。
付き合ってもう数ヶ月経ったのに、このカップルは、未だに付き合ってまもないカップルみたいで、目が離せない。
どちらが悪いわけでもないのに。
お互いを思ってすれ違っちゃうんだから、ホント、仕方ないなぁ。
「それで、どうするの?」
「うん…」
やり場の無い手をごまかすように、手にしたおしぼりを畳んだり広げたりして。そうして悩んでるあかりは、いつもに増して、可愛いらしいな、なんて思う。見てて微笑ましくなっちゃうんだ。
本当はね、聞かなくても分かってるの。
昔からずっと見てたもの。
あかりにとって何が一番いいのか。
こんなとき、どうすればいいのか。
「…謝りたい、けど…」
「けど?」
「なんて顔して会ったらいいのよー!」
そう言って、おでこを抑えてあかりが俯く。
思いっきり大嫌いと宣言してしまった手前、居たたまれないらしい。
だけどね、あかり。
そうゆう時は、考えるより会ってしまった方が早いんだよ。
「…だってさ、進藤君」
「サンキュ、津田」
急いで来たんだろう、上がった息を整えながら、出来るだけ静かに寄ってきた進藤君に、私は軽く手を上げて合図をする。
そんな私たちのやりとりを交互に見て、あかりは口をあけて呆然と見ていた。
どうやら、よっぽど驚いたらしい。
おしぼりを片手で持ったまま、進藤君を見上げて、あかりはやっとのことで声をしぼりだす。
「ど、どうして…!」
「津田に連絡もらった」
「久美子!?」
「さっきちょっとね」
「おかげで全力疾走だよ」
「嘘は言ってないよ、私」
未だ呆然とするあかりを他所に、私たちは駆け引きをするように笑いあう。あかりには知られないよう、こっそり連絡してからそう経っていない。本当に、余程急いだんだろうと思う。
早く来ないと、あかりは私が貰っちゃうよ。
それだけだったのに。
「…あかり」
「え、えっと」
「ごめん、俺が悪かった」
…素直に謝る進藤君ってのも見物だなー、なんて思いながら、私は静かに二人を見守る。これ以上の口出しは、きっと必要ない。
私の助けを求めるようにあかりがこちらを見たけれど、私はただ笑って返した。
だってこれは、ここからは。あかりの問題。
「デートの続き、しようぜ」
そう言って進藤君があかりを誘う。そんな台詞、昔じゃ考えられなかったけれど。
少しはカップルらしくなったのかな、なんて親心みたいに思ったりして。
よかった、と思ったときだった。
「…やだ」
予想に反したあかりの返事にびっくりしたのは私だけではないらしい。
断られると思っていなかった進藤君が、今度は呆然としてしまって二の句が告げずにいる。
変わりに、私が。
「ちょっ…あかり!?」
「今日はこのまま久美子とデートするの!」
「あか――」
「(だってやっぱり恥ずかしいんだもん…!ね、いいでしょ!?)」
「(でも…!)」
「(ね!?)」
そう言ってあかりは強引に、ごちそうさま、とお勘定を持ってレジに向かってしまう。
残された私と進藤君は、その姿をただ眺めてしまって。
先にそれを破ったのは進藤君。
思いがけず、本当になってしまった言葉を思い出したのか、苦笑しながら呟いた。
「…やっぱり、お前がライバルだな」
その役どころは、ちょっと、やっぱり、遠慮したいところです。
少し俯きながら、あかりはこくりとうなずいた。
手にしたカップを口へ運び、音を立てずに一口飲んで、ティースプーンを置いたままのソーサーに戻す。そんなあかりの目は、泣いたせいだろうか、少しだけ赤くなっていて。
私は、そっか、とだけ呟いた。
付き合ってもう数ヶ月経ったのに、このカップルは、未だに付き合ってまもないカップルみたいで、目が離せない。
どちらが悪いわけでもないのに。
お互いを思ってすれ違っちゃうんだから、ホント、仕方ないなぁ。
「それで、どうするの?」
「うん…」
やり場の無い手をごまかすように、手にしたおしぼりを畳んだり広げたりして。そうして悩んでるあかりは、いつもに増して、可愛いらしいな、なんて思う。見てて微笑ましくなっちゃうんだ。
本当はね、聞かなくても分かってるの。
昔からずっと見てたもの。
あかりにとって何が一番いいのか。
こんなとき、どうすればいいのか。
「…謝りたい、けど…」
「けど?」
「なんて顔して会ったらいいのよー!」
そう言って、おでこを抑えてあかりが俯く。
思いっきり大嫌いと宣言してしまった手前、居たたまれないらしい。
だけどね、あかり。
そうゆう時は、考えるより会ってしまった方が早いんだよ。
「…だってさ、進藤君」
「サンキュ、津田」
急いで来たんだろう、上がった息を整えながら、出来るだけ静かに寄ってきた進藤君に、私は軽く手を上げて合図をする。
そんな私たちのやりとりを交互に見て、あかりは口をあけて呆然と見ていた。
どうやら、よっぽど驚いたらしい。
おしぼりを片手で持ったまま、進藤君を見上げて、あかりはやっとのことで声をしぼりだす。
「ど、どうして…!」
「津田に連絡もらった」
「久美子!?」
「さっきちょっとね」
「おかげで全力疾走だよ」
「嘘は言ってないよ、私」
未だ呆然とするあかりを他所に、私たちは駆け引きをするように笑いあう。あかりには知られないよう、こっそり連絡してからそう経っていない。本当に、余程急いだんだろうと思う。
早く来ないと、あかりは私が貰っちゃうよ。
それだけだったのに。
「…あかり」
「え、えっと」
「ごめん、俺が悪かった」
…素直に謝る進藤君ってのも見物だなー、なんて思いながら、私は静かに二人を見守る。これ以上の口出しは、きっと必要ない。
私の助けを求めるようにあかりがこちらを見たけれど、私はただ笑って返した。
だってこれは、ここからは。あかりの問題。
「デートの続き、しようぜ」
そう言って進藤君があかりを誘う。そんな台詞、昔じゃ考えられなかったけれど。
少しはカップルらしくなったのかな、なんて親心みたいに思ったりして。
よかった、と思ったときだった。
「…やだ」
予想に反したあかりの返事にびっくりしたのは私だけではないらしい。
断られると思っていなかった進藤君が、今度は呆然としてしまって二の句が告げずにいる。
変わりに、私が。
「ちょっ…あかり!?」
「今日はこのまま久美子とデートするの!」
「あか――」
「(だってやっぱり恥ずかしいんだもん…!ね、いいでしょ!?)」
「(でも…!)」
「(ね!?)」
そう言ってあかりは強引に、ごちそうさま、とお勘定を持ってレジに向かってしまう。
残された私と進藤君は、その姿をただ眺めてしまって。
先にそれを破ったのは進藤君。
思いがけず、本当になってしまった言葉を思い出したのか、苦笑しながら呟いた。
「…やっぱり、お前がライバルだな」
その役どころは、ちょっと、やっぱり、遠慮したいところです。
*18と対になってます。