21.5.嘘つき

 どうしたらいい?
 土日を含めて、4日間。たったそれだけの間なのに、まるでずっと来ていなかったかのような錯覚に陥る。碁盤に向かう時間はとても長くて、とても短くて。それでもやっぱり、それが全てであるようにすら思う。だからそこが自分の場所で、それ以外はなくて、―――だから。

 懐かしい木の香りがする。
 雨の湿気を含んでか、それはいつもより強い。

 カタ、と思わず立ててしまった音に少し慌てる。だけどそれはただの杞憂だったようで、俺はホッと胸をなでおろすような思いだった。少し強くなった雨音が、耳に馴染むせいだろう。たぶん些細な音では気づかない。

 俺は一歩、一歩とゆっくりとあかりに近づく。

 放課後の教室で、一人何故か居眠るあかり。
 教室で待ってると津田に伝言を貰ったから来てみれば。
 待ちくたびれたように、すやすや眠りこんでいて。

 起こさないように、ゆっくりと気配を殺してその側に近づく。

 規則的に鳴る雨音はいろんな音を誤魔化してくれる。それでもやはり息を潜めたまま、あかりの寝顔を見下ろして、小さくため息を零す。


『…ごめんなさい』
『好きな奴、居るの?』
『…居ない、けど』


 そう言って、俯いたあかりを思い出す。相手は知らない。顔も見てない。そんなのはどうでもよかったんだただ。
 あかりが。
 苦しそうに、否定するから。

 電気すら消された教室。明かりは窓からうっすらと入るものだけで、それでもこの空模様でそれだってロクにあるわけじゃない。
 それでも、それで十分だった。
 見えづらくしてくれるならそれで。

 ゆっくりと、手を持ち上げる。

 抱きしめたいと思った。意味は無いけれど、でも、そうじゃなくてもいい。頭をなでるとか。バカだなって叩いてやるとか。そんなのでいいんだ。そんなのでよかったのに。
 それすらも、出来なくて。

 持ち上げた手を、もう一度ポケットへ仕舞う。

 苛々する。
 どうして、と。それを自分に訊くのは敢えて止めた。
 今はまだ、たぶん、早いんだ。


「――あかり!」


 耳元で思いっきり、嫌がらせのように名前を呼んだ。案の定驚いたあかりがヒカル!と抗議したのがおかしくて、拗ねるあかりにお前が悪い、って笑った。


 とりあえず、今はそれだけでいい。


「帰ろうぜ」
「うん」


 それだけで、いいんだから。



*まぁ進藤サンもかっこよくなったのでそんな彼を好きな子の一人や二人いてもおかしくないなーと思って。でもほら、進藤サンいつもあかりちゃん見てるから(待て)せつねー!(だしだし)と思ったら出来上がりました。そんな雰囲気を詰め込んでみました。出来たかどうかは不明です。