28.おんぶ

 だって少しでもキレイにしたかったんだもん。
「…ったく、そんな靴履いてくるからだよ」
「ごめんなさい…」

 どうして私はこうなんだろう。
 昨日買ったばかりのミュールに、私の足は無残にも悲鳴を上げてしまった。最初は我慢していた靴擦れも次第に酷くなってしまって、結局歩くのにも辛くなって。
 ヒカルが跪いて、私の右足の指先にバンソーコを貼る。その手が冷えてしまった私の足に触れて、その暖かさになんとなくホッとする。

 あーあ。
 折角のお気に入りだったのに。

 ヒカルが気づくはずもないって分かってたけど、でも、少しでも、と思ったの。
 結局迷惑をかけてしまうんじゃ意味が無いのに。

 貼り終わったヒカルが、よし、と立ち上がってごみを丁度良くそばにあったゴミ箱に捨てる。そうして私に向き直って、もう一度しゃがみ込んだ。

「ほら」
「え?」
「背中に乗れよ」
「え、いいよ!重いし!」
「どうせ歩けないだろ。いいから、ホラ」

 そう言ってヒカルが、視線だけ後ろに向けながら手招きをして。…恥ずかしいけど、仕方が無い。歩けないのは事実なんだから。

「靴と鞄は持てよ」
「うん」

 一度降ろしていた鞄を肩にかけ、靴を両手で一つずつ持つ。今日はショルダーバックで良かった。こんな風に役立てるつもりじゃなかったけど、でも良かった。
 そうしてヒカルの背中に、おそるおそる乗る。

「…っしょ」
「ごめんね、重いでしょ?」
「うん重い」
「―――ヒカルっ」

 そう言って私はヒカルの背中から、少しだけ攻撃しようとする。

「暴れんなって!」
「ヒカルが悪いんでしょ!」
「お前が訊いたんだろ」
「そうゆうときは重くないっていうもんなの!」

 だけどそれがヒカルの本心でないことも分かってるんだけど。…本当は重いかもしれないけど、でも、ヒカルが本当に嫌だったらきっとこんなことしないと思うから。

「〜〜〜っ分かったから!
 お前大人しくしてろよ!」

 いつまでも攻撃を続ける私に、ヒカルが少しだけ声を荒げる。

「何よ、そんなに怒らなくてもいいじゃない」
「怒ってるんじゃなくて…
 お前が動くと俺が大変なの!」

 ヒカルの言葉に、重たいのかな?と、思って、言われるままに大人しくする。
 ただでさえ迷惑をかけているのに、これ以上は申し訳ないもん。

 ――そう思ってたんだけど。


 気づいちゃった。

 ヒカルの…耳が。真っ赤になってること。


 ――照れてたんだ。

 そう思った途端、私はなんだか、…笑えてしまって。
 小さく笑っていたらヒカルが憮然とした顔をこちらに向けた。

「…なんだよ」
「なんでもない」

 なんでもないよ。
 ただ少し、……嬉しかっただけ。

 だから気づかなかったことにしてあげるよ、ヒカル。


 いつも並んだ二つの影が、
 今日は一つの帰り道。



*触れているだけならぬくもりだけだけど動くと軟らかいのが分か(げほごほ)