34.お手々つないで

 離したくないね。
「ねぇ、ヒカル」

 今にも手放しそうな意識の中、私は布団からもそもそと手だけを出した。ただでさえ重たい布団が、今は一層重い。体中が倦怠感で動かせなくて、それだけが精一杯だった。

「何。
 …つーかお前、もう寝ろよ。折角熱下がりかけてんだから」
「うん、でも…手、繋いでていい?」
「は?」
「そしたら寝るもん」

 そう言って私は手をひらひらさせる。ヒカルは何言ってんだ、と少し恥ずかしそうにして視線をそらしたけれど。でも、やっぱり、今はそうしたいの。

「…さっきね、懐かしい夢を見たの」
「夢?」
「昔、私が風邪で休んだとき、ヒカルプリン持ってきてくれたの。…覚えてる?」

 給食についてたプリン。人気があって、残ってもなかなか手に入らなかったのに、ヒカルがお見舞いに持ってきてくれた。それはいつものプリンよりうんと甘くて。

「覚えてねぇよそんなの」

 ぶっきらぼうにヒカルが言う。
 その横顔が、懐かしい思い出にとても似ていて少し安心する。

 どうしてかな。
 風邪を引くと心細くて。
 いろんなことが、懐かしくて。

「あの頃みたいに、ね?」

 いつもよりずっと弱弱しい声で、ヒカルにおねだり。
 病人だもん、それくらいいいよね?

「しょーがねーな」

 一つため息をついた後、ヒカルがそう言って私の手を取った。
 その手は少し、冷えていて。
 いつもより熱い私の手にはきもちよかった。

「きもちいー…」

 頭がボーっとして。
 自分でも何言ってるのか考えてるのかわかんないけどそれだけは分かる。
 あの頃とはぜんぜん違う、ごつごつした大きな手が柔らかく握る。

「…お前なぁ…!」
「んー…?」

 ああ、残念。
 ぬくもりが気持ちよくて、意識がどんどんぼけていっちゃう。

 あのね、ヒカル。
 こうして触れてるとね、ヒカルが側にいるなって安心するの。
 当たり前なんだけど。側に居るから、触れてるんだから、当たり前なんだけど。
 でもすっごくホッとするんだよ。

 だからね、ヒカル。
 ずっと離さないでいてね。

 ―――せめて私が眠るまで。



*そういえばあんまりあかりちゃんサイドって書いてないなって思った。
だからちょっと可愛く書こうと思った。
だけど書く人が男前なので無理だと気づいた。