逃げ水

written by 十環いまり様
この世界がもう少しだけ、優しかったなら。






夕焼け色の帰り道。
前を歩くヒカルの後ろを、少し離れてついていく。


離れていく距離は、会えなかった時間に比例して。


だんだん遅くなる私の足取りに気づくことなく、ヒカルの背中はだんだん小さくなっていった。



―――ねぇ、誰のこと考えてる?



時たま、ヒカルの心はどこか遠くに飛んでいく。
その時の表情は、優しかったり、哀しそうだったり。
間違いなく、誰かに想いを馳せている顔。


始めは「何考えてるの?」って聞いていた。
するとヒカルは決まって「何でもねーよ」って笑って。
そして、少し寂しそうな目をした。

「誰」かは知らない。
でも、ヒカルにとって特別な存在だってことは私にも伝わって。
・・・・いつからか、聞くことが怖くなった。




数十分前に訪れた夕立の置き土産の前で足を止める。
俯いた拍子に、伸びた髪が一房、肩から滑り落ちた。


水面が鈍く揺れる。映った自分の顔が、まるで泣き顔のように歪んだ。




幼馴染みというポジションから、未だ抜け出せないでいるのに。
傷つくことが怖くて肝心の一歩を踏み出せない私が、こんな事を思うのはお門違いなのはわかってるけど。


私のことも、見て。




「――あかりっ」


ハッと顔を上げる。
その先には、少し前で立ち止まったヒカルの姿。


「さっさと来ねーと置いてくぞ?」

「あ、うんっ・・・」




私より大きくなったその手に、触れてみたいとは思うけれど。
手を繋いでとか、そんなことは望まないから。



『――あかりっ』



名前を呼んで。









側に、いさせて。





From KIRYU
 あかりちゃん…!(泣)なんかもう、ホントに進藤さんには勿体無いよね!(笑) 分かりやすいのにお互いが鈍くてすれ違う二人。そんなイメージ(笑) 十環さんありがとう!!