散華

 瞬間、目の前が真っ暗に―――否、真っ赤になった。


「姫さま!?姫さまっ!!!」


 何?
 何が起こったの?
 どうして姫さまが―――


「姫さまぁ……っ」


 目の前に横たわるのは、その着物を鮮血で染め横たわる女性。
 それは、誰よりも大切で誰よりも幸せになって欲しいと願った……私の主。
 その手元には短剣が握られていて。
 まるで止まる事を知らないかのように溢れつづけるその赤い水溜り。


「…っ!ど…うして……」


 声が、思うように出ない。
 咽が熱くて痛くて息を飲み込む事すら出来なくて。

 どうしてこんなことになってしまったのだろう。
 姫さまの様子がおかしかったこと、気づいていたのに!
 私の……
 私のせいだ……っ


「きゃぁぁぁぁっ」


 異変に気付いてか、駆け寄ってきた他の女房が叫んだ。
 それさえも、私には遠くに聞こえて。


「誰かっ!早くきて!!!」


 どうして?
 ドウシテ?

 ただその言葉だけが思考を埋め尽す。


「どうしたっ! ………沙桐!?」


 ああ、殿様の声が聞こえる。
 いらっしゃると言う事は、今日は物忌みだったかしら……

 何もかもが、遠くに聞こえる。
 まるで全てが現実ではないような。


「志野!沙桐はどうしたのだ!?お前がついていながら、何故…!!」


 ナゼ?
 …だって姫さまはあの方が大好きでいらしたから。
 大好きなあの方が、他の方の…実の姉の夫となられてしまったから。
 ダカラ?


「ひめさま…!姫様ぁっ……!!」


 喉が裂けそうなほどに叫んでも、
 胸が千切れそうなほどに願っても。

 私の声は、姫さまには届かない。




 ―――――赤く散る華。
      今まだ眠りつづける。