思いがけない暖かさに

## キラメキ銀河町商店街 第23話・24話幕間
## イバ→キューにおけるイバちゃんとハルカ兄さん

暑すぎる日差しが、例外なく肌を焼く。この分だと今朝方塗った日焼け止めも、どれ程の効果を発揮するか分からない。けれどそんなことは気にしても仕方のないことで、目下問題は目の前の課題をクリアする事だ。
一番星マスターの甘い誘いに乗せられて、やってきた夏の海、海の家、潮。
課されたノルマは厳しいものの、クリア出来ない量じゃない。特に生まれた時から商店街で育ってきた、私たちには。―――最も、そうハッパかけたのは他ならぬミケクロコンビだけれど。

何度目かの焼きそばを焼き終えたあと、ふぅ、と溜め息をついてヘラを下ろす。この調子で行けばノルマのクリアはなんとかいけそうだ。そう思い、少しだけ一息つく事にした。店を見渡せば同じように忙しなく働く幼なじみたちが居て、思わず顔が緩む。さすがだね、とか、相変わらずだね、とか、そんな気持ちが胸を暖かくさせるのだ。
そうして、さてもう一がんばり、とヘラを再び手に取った時だった。
少し遠くで大好きな人の名を呼ぶ、お調子者の声が聞こえたのは。

またやってる。

それはいつも見る光景で、だから特別どうこうということもない。いつもいつも、キューがアス姉に寄っていっては、一刀両断されて、それでも諦めることなくアス姉を追う。ただそれだけのこと。『あきらめません、勝つまでは!』がキューの持論らしいが、アス姉にとってはいい迷惑だろうと思う。それでもキューの言動がどれ程ふざけていても、その想いが本気だという事は知っているから、いつだって、懲りないなぁ、なんて苦笑いするしかない。
ふと、視界が少しかげって、背後に気配を感じた。

「不毛だね」
「ハル兄」

お遣いから帰ってきたばかりなのか、手に袋を提げたままのハル兄が私と同じ方向へ視線を向けていた。だからその意味をすぐに悟って、私も呆れたように言葉を返す。

「まったくだわ。見てるこっちが呆れるっての」
「イバちゃんのことだよ」

今度は、その意味を直ぐには理解出来なかった。
ハル兄に振り返って、笑い飛ばそうと思ったけれど上手くいかなかったから、きっと曖昧な笑みになったと思う。

「……気付いてたの、ハル兄」
「薄々ね」

いつものことだって。
だから特別どうということもないことだって。
そうして、胸の奥でざわざわした感覚がある事も、またいつものことで。
ただ、それだけのことで。

視線を鉄板に向き直り、ヘラを片手にして、野菜を鉄板に乗せる。その前に油を引くんだった、と気付いて、油を手に取る。お客さんは待っちゃくれないんだから、いつまでも休んでいるわけにはいかない。
そんな私に、ハル兄はポンと頭に手を置いて、ぐりぐり撫でた。

「ちょっハル兄っ!」
「ほんっとイバちゃんは良い子だなー」
「もー!」

そう言って怒る私に、ハル兄はハハッと笑って店の奥へと戻っていった。
そんな気遣いが嬉しい。
だから私も、よしっ、と再び気合いを入れて焼きそば作りに精を出す。

ああ、でも。その通りだね。

「本当、不毛だわ」

キューも、―――私も。





# 2007.10.01
# ハル兄が思ったより出張ってしまったせいでうっかりハルイバっぽくなってしまわないかとヒヤヒヤした(笑)