だから、わざと不機嫌

 天然だっておもうのはこんな瞬間。
「ぅわっ…!」
「ミレーユ!?」


 慣れていないから、なんて言い訳はしたくないけれどやっぱり慣れていないから、こんなヒラヒラしたドレスにヒールの高い靴じゃ足下も落ち着かない。
 思わず躓きそうになったその瞬間、咄嗟に手近にあった手摺に掴まってなんとか事無きを得た。
 フレッドからの借り物とはいえ、こんな素敵なドレスを汚してしまっては勿体ない。

 手摺に少し体重を預けて、体勢を立て直したわたしにリヒャルトが言う。


「…そのまま、俺に掴まってくれて良かったのに」
「何言ってんのよ。危ないじゃない」
「貴方一人支えるぐらいなんてことないです」
「折角綺麗な格好してるのよ。破いちゃったらどうするのよ、もったいない」
「そんな大した服じゃありませんよ」
「大した服じゃなくても、」
「俺としては、貴方に触れる機会が一つ減ってしまった事の方が『もったいない』です」
「なっ…」
「何にせよ、貴方に怪我が無くてよかった」


 そう言って、有無を言わせない雰囲気でにこりと笑う。

 ちょっと、それ、どういう意味?

 そう問い質したいのに、硬直してしまった喉がいうことをきかない。
 そのスキに、リヒャルトは熱をもったわたしの手を取る。
 そうして指を絡めて、力を込めるとまたにっこりと笑った。
 今度は少し意地悪な笑顔だ。


「こうしていれば安心ですね」


 わたしはむしろ落ち着かないんですけど…!

 だけどそう言って手を振りほどくのは、その、なんていうか…もったいなく、て。
 されるがままに、手を握り返すと何故だかほっとする自分に気付いた。


「…もう転んだりしないわよ」
「それは残念。今度こそ寄り掛かってもらえると思ったのに」


 ――だから!
 それはどういう意味なのよ…!?


 繋いだ手を恥ずかしさに振りほどきたい衝動と、伝わる大きな手の感触と暖かさに安心する気持ちが織り交ぜになって、結局やっぱりわたしは黙るしか出来なかった。





* なんかうまく締まらなかった!
そういやミレーユ書いた事ないなっていうのと、わたし書くの切ないのばっかりだからたまには甘いのっていうのと。