愛すべき日常

「だぁぁぁっ!そんな格好でうろつくなと何度言わせるっっ」

 標準時間では、決して早くはないある朝。天気のほどはこの宇宙空間においては関係ない。
 今日も今日とて船内にケインの叫び声が響き渡る。

「う〜〜〜〜ん。5回目?」
「12回目です」

 ミリィの返事に、キャナルが訂正を加える。
 すこぶる性能の良い船の主制御装置は、船内の全てを記録しているのだろう。3年前のくしゃみの回数だってきっと記憶している。

「いいじゃない、別に。減るもんじゃないし」
「そうそう」

 先の台詞はミリィ、後がキャナルだ。
 この船の女性陣の思考回路はいったいどうなっているのか、ケインは常々不可解に思う。減るとか増えるとかそういう問題ではない。

「いーから着替えて来いっっ」

 声が枯れんばかりにケインは叫ぶ。その表情が心なしか赤いことに、ミリィは気づいていない。

「…分かったわよ。仕方ないなぁ」
「仕方ないぢゃねぇっ!」

 ケインの抗議の声を背に、ミリィは部屋を後にした。



 ミリィが部屋を去った後、キャナルはケインに耳打ちする。

「嬉しいけど、目のやり場に困るってトコロかしら?」
「なっ……!」

 何を、そう言おうとしたが動揺のせいか声にならない。

「以前みたいに、他の男にうっかり見られるのが嫌なのよね?」
「〜〜〜〜〜っ!!」

 今度はハッキリと真っ赤になった。
 ニヤリと笑うキャナルを前に、金魚のように口をパクパクさせるしか出来ないケインだった。





*JOKERより再録