恋せよ乙女!

 うらやましいなぁって思ったの。

 だからこれは、
 ほんのちょっとしたいたずら。
「ありがとうございました、ブルーリバーさん。おかげで本当に助かりました」


 とびきりの笑顔(のつもり)で、そう告げる。少しだけ目を潤ませて、上目遣いにしてみたりして。
 一方で触れた手を強く握る。
 軽い握手のつもりで差し出されたその手は、思ったより骨ばっていて思ったより男の人の手で―――不覚にも少しだけときめいてしまった。


「いえ、こちらこそありがとうございました、さん」


 そういって営業スマイルをする彼の隣で彼女もまた柔らかく笑う。きんいろの髪の素敵なひと。


 あたりまえのように彼のとなりでわらうあなたが。
 すこしだけうらやましかったの。
 …だからね?


「これ、宜しかったら受け取ってください。昨日頑張って作ったんですよー。お礼です!」


 そう言って、ハンドバックから取り出したのは綺麗にラッピングされたハート型の固形物。
 中身は勿論チョコレート!
 まるで本命かのようなそれに、ちょっと戸惑いながらもありがとうと彼は笑う。


 ―――ああ、やっぱり。好きだなぁ。


 それはまだ恋になる前の小さな気持ち。
 だからこれくらい許してよ。
 ね、ミリィさん?










「なっ―――――」










 突然の出来事に、思わず声をあげる彼女。

 触れたのはホンの一瞬。
 それでも確かに、この唇に。感じたのは彼の体温で。


「――ありがとうございました!良い航海を!!」


 呆然とする彼と彼女に、いじわるなきもちをたっぷり込めた笑顔を向けて。ニヤリ、と笑って見せたらミリィさんはやっぱり不機嫌な顔をして。私は横目にそれを見ながら足早にその場を去ったのだけど。

「ケーイーンー?」
「不可抗力だっっ」

 そんな会話が聞こえた気がした。










 そんでもって家に帰ったらメールが届いて先に船に戻っていたキャナルさんからありがとうって内容のメールを貰った。
 きっとたぶん、うまくいったんだろう。

 ―――やっぱり悔しいなぁ。










 いつかまたあのひとたちに会うことが出来たなら。
 今度はとびっきりのいたずらを仕掛けてやろうと思った。