夏の終わりに

 少しずつ、少しずつ。
 それは曖昧で、だけど確実に。
「もぅ秋ねぇ…」

 言葉とは裏腹に、銀のスプーンにのせたアイスクリームを口に運ぶ。秋といっても、まだ昼間は十分に暑い。幾分か涼しい店の軒下で、空を見ながらリナは言う。

「そーだなー」

 ガウリイが、答える。手には同じく銀のスプーン。もう片方の手の小さなお皿にのったアイスクリーム。つつくと、スプーン越しでもその冷たさが伝わる。

「リナは食欲の秋だろう?」

 からかうように笑う。スプーンでアイスクリームを一口すくって、口へ運ぶ。甘く、冷たい感触が口一杯に広がる。今年のアイスクリームの食べ納めかも知れない。

「それはアンタもでしょう?取り敢えず山の幸は外せないわよね」
「キノコか。焼いて食うのが好きだな、俺は」
「炊き込み御飯ってのも、捨てがたいわよね」

 空になったお皿を脇に置きながら笑う。何だかうっとりしているような気がするのは、おそらく気のせいではないだろう。

「んじゃ、ま、行きますか!秋の味覚を求めて!」
「おう!」

 リナは店のおじさんに勘定を渡し、荷物を持って立ちあがる。荷物は昨夜の盗賊いぢめで手に入れた、まだ換金していないものだ。なんだかんだ言いつつも、依頼の無い間は貴重な収入源なので最近はガウリイも何も言わない。――言ってもきかない、というのもあるが。
 先に進もうと踏み出した途端、ガウリイが手を差し伸べて、言う。

「ん」
「何?」
「荷物。持ってやるよ」
「…そう?ありがと」

 別に重たいわけでも無いんだけど、持ってくれると言うのだから持ってもらおう。だけど、何だか不思議な違和感があるのは――――何故だろう?
 考える。が、答えは出てこない。
 ――まぁ、いいか。
 思考回路はすぐにまた秋の味覚へと移る。
 山に、行こうか。何処が良いだろう。キノコの、美味しいトコロ。


 少しずつ、少しずつ。
 変わっていく。
 それは曖昧で、だけど確実に。

 夏が終わる。
 秋に、なる。


 ――君のトナリで。





*初出:JOKER発行ペーパーno8より 2001/09発行