13.鬼ゴッコ
それはもう、癖にように染み付いてた。
放課後、久美子に付き合ってもらって立ち寄った本屋で、雑誌コーナーに立ち寄って。私みたいな女子高生なんかは滅多に寄り付かないような、趣味の雑誌が集まる棚で、あまり目立たなくあるその雑誌を手に取り、軽く流し読んでから参考書の上に重ねた。
そうしてレジに並び、会計を済ませ、同じく雑誌を立ち読みしていた久美子に声をかけて店を出る。
途端吹いた秋風が心地よくて、新しくおろした制服がなびくのが何故だか嬉しかった。
「ごめんね、つき合わせちゃって」
「ううん、私も本屋好きだし」
「分かるー!時々1時間とか居ついちゃうのよね」
「立ち読みしてるとあっという間だもんねー。さっきも見てたけど、高い高い」
そう久美子が苦笑して、私もそれに倣う。ファッション雑誌の高さときたら、お小遣い貰っている学生には難しいもので、いつも立ち読みばっかりで。たまにお姉ちゃんが買ってきたのを見せてもらうか、それぐらいしかない。
そうしてふと、久美子が思い出したようににこにこして私を見た。
「それ、週刊碁でしょ?」
「あ、うん」
これはね、安いんだ、と笑って言う。それでも毎週買っているとバカにならないけれど、今週号はヒカルが載っていたから、是非も無く買ってしまった。
「あかりって本当に進藤君が好きよね」
「えぇっ!なんで!?」
「すごい嬉しそうに見てたよ」
それ、と言う代わりに指を刺して私の抱えた紙袋を示す。やだ、見られてたんだ。
「好きなんだなーって思ったよ」
そう言って久美子は笑った。
きっと他意は無いんだろうと思う。
事実私はヒカルが好きで、それは小さい頃から変わらなくて、だからずっとヒカルを追いかけてた。
会えない今が、切なくて。
会いたい、なんて思ったりして。
―――だけど。
「…違うよ」
「え?」
私自身もわかんないこの気持ち。
久美子ならわかってくれるかな。
「私、ヒカルを好きなんかじゃないよ」
違うの。そうじゃないの。
好きだけど、好きなんかじゃなくて。
「好きじゃないよ」
だけど、タイミングが悪かったのだと、気づいたときには遅かった。
「…あかり」
「え?」
後ろ、と声で示されて振り向いたら、そこにあったのは数ヶ月ぶりの幼馴染の姿で。
私がヒカル、と声をかけるより早く、ヒカルは早足でその場を去った。
待って!と声をかけても振り向いてはくれない。
突然の出来事にどうしていいか分からず、ただ呆然とする。
「あかり、追いかけないの?」
「え?…あ、うん」
「話は後で聞くから、ほら早く!」
「うん、ごめんね!」
背中を押す久美子に手を振って、私は駆け出す。腕に抱えた本を手に持ち直して、ヒカルが去っていった方向へ。夕方だから人も多くて難儀するけど、そんなの構わない。
だってヒカル。
傷ついた顔してた。
たぶん他の人からみたらそれは怒ってるみたいだったと思う。睨むように私を見てた。ヒカルは時々、傷ついたときに怒るようにするから。あれはきっと傷ついてたんだと、思うのはきっと自惚れじゃない。
程なくして、人ごみを難なくしてすり抜けるヒカルを見つける。
「ヒカルっ!」
声を張り上げるけれど、ヒカルは振り向かない。気づいてないことはないと思う。だって進む足が速くなったもの。走るまではなくても、それはリーチの差か。すれ違う人にいちいちぶつかりそうになってしまう私は避けるのにいっぱいいっぱいで、なかなかヒカルに追いつかない。
「ヒカル、待ってよ!」
違うの。
そうじゃないの。
思う言葉は強いのに、言葉にするスキもない。
それでもやっとのことでヒカルの後ろにたどり着いて、だけどヒカルの足は速いままで。私も早足に、時々小走りしながら、ヒカルの背中をひたすら追った。
放課後、久美子に付き合ってもらって立ち寄った本屋で、雑誌コーナーに立ち寄って。私みたいな女子高生なんかは滅多に寄り付かないような、趣味の雑誌が集まる棚で、あまり目立たなくあるその雑誌を手に取り、軽く流し読んでから参考書の上に重ねた。
そうしてレジに並び、会計を済ませ、同じく雑誌を立ち読みしていた久美子に声をかけて店を出る。
途端吹いた秋風が心地よくて、新しくおろした制服がなびくのが何故だか嬉しかった。
「ごめんね、つき合わせちゃって」
「ううん、私も本屋好きだし」
「分かるー!時々1時間とか居ついちゃうのよね」
「立ち読みしてるとあっという間だもんねー。さっきも見てたけど、高い高い」
そう久美子が苦笑して、私もそれに倣う。ファッション雑誌の高さときたら、お小遣い貰っている学生には難しいもので、いつも立ち読みばっかりで。たまにお姉ちゃんが買ってきたのを見せてもらうか、それぐらいしかない。
そうしてふと、久美子が思い出したようににこにこして私を見た。
「それ、週刊碁でしょ?」
「あ、うん」
これはね、安いんだ、と笑って言う。それでも毎週買っているとバカにならないけれど、今週号はヒカルが載っていたから、是非も無く買ってしまった。
「あかりって本当に進藤君が好きよね」
「えぇっ!なんで!?」
「すごい嬉しそうに見てたよ」
それ、と言う代わりに指を刺して私の抱えた紙袋を示す。やだ、見られてたんだ。
「好きなんだなーって思ったよ」
そう言って久美子は笑った。
きっと他意は無いんだろうと思う。
事実私はヒカルが好きで、それは小さい頃から変わらなくて、だからずっとヒカルを追いかけてた。
会えない今が、切なくて。
会いたい、なんて思ったりして。
―――だけど。
「…違うよ」
「え?」
私自身もわかんないこの気持ち。
久美子ならわかってくれるかな。
「私、ヒカルを好きなんかじゃないよ」
違うの。そうじゃないの。
好きだけど、好きなんかじゃなくて。
「好きじゃないよ」
だけど、タイミングが悪かったのだと、気づいたときには遅かった。
「…あかり」
「え?」
後ろ、と声で示されて振り向いたら、そこにあったのは数ヶ月ぶりの幼馴染の姿で。
私がヒカル、と声をかけるより早く、ヒカルは早足でその場を去った。
待って!と声をかけても振り向いてはくれない。
突然の出来事にどうしていいか分からず、ただ呆然とする。
「あかり、追いかけないの?」
「え?…あ、うん」
「話は後で聞くから、ほら早く!」
「うん、ごめんね!」
背中を押す久美子に手を振って、私は駆け出す。腕に抱えた本を手に持ち直して、ヒカルが去っていった方向へ。夕方だから人も多くて難儀するけど、そんなの構わない。
だってヒカル。
傷ついた顔してた。
たぶん他の人からみたらそれは怒ってるみたいだったと思う。睨むように私を見てた。ヒカルは時々、傷ついたときに怒るようにするから。あれはきっと傷ついてたんだと、思うのはきっと自惚れじゃない。
程なくして、人ごみを難なくしてすり抜けるヒカルを見つける。
「ヒカルっ!」
声を張り上げるけれど、ヒカルは振り向かない。気づいてないことはないと思う。だって進む足が速くなったもの。走るまではなくても、それはリーチの差か。すれ違う人にいちいちぶつかりそうになってしまう私は避けるのにいっぱいいっぱいで、なかなかヒカルに追いつかない。
「ヒカル、待ってよ!」
違うの。
そうじゃないの。
思う言葉は強いのに、言葉にするスキもない。
それでもやっとのことでヒカルの後ろにたどり着いて、だけどヒカルの足は速いままで。私も早足に、時々小走りしながら、ヒカルの背中をひたすら追った。
*14「とくべつ」に続きます!